中之島散策
お気に入りの一冊を見つけ、無限の想像力を育んでほしい
こども本の森 中之島 館長 伊藤 真由美さん
中之島人をたずねて
2025.12.26 Fri
2020年、大阪の歴史と文化が息づく中之島の東エリア、水辺にある中之島公園に誕生した「こども本の森 中之島」。世界的に有名な大阪出身の建築家・安藤忠雄氏が設計した空間の中で、児童文学、図鑑、芸術書など、さまざまなジャンルの本にこどもたちが出会うことができる文化施設として、注目を集めています。館長の伊藤真由美さんに館内を案内していただきながら、設計のこだわりや中之島とのかかわり、今後の展望などをお聞きしました。
(トップの写真はこども本の森 中之島さまより提供。★マーク写真 撮影:いとう写真)
こども本の森 中之島 館長の伊藤 真由美さん ★
■建築家・安藤忠雄氏が中之島に創り出す「物語の聖地」
-まず「こども本の森 中之島」の成り立ちについて教えてください。
「世界的な建築家である安藤忠雄先生(以下、安藤先生)が、「本を通じてこどもたちに豊かな感性を育んでほしい」という想いを込めて、設計・建設した施設を寄贈する「こども本の森」プロジェクト。初めての寄贈先として選ばれたのが自身の出身地・大阪で、2020年7月に「こども本の森 中之島」がオープンしました。名誉館長は大阪出身、ノーベル生理学・医学賞受賞者の山中伸弥先生。同プロジェクトに賛同し、寄贈いただいた本は「あの人の本棚」コーナーで手にとっていただけます。
日頃の運営は企業や個人からの寄附金で賄っており、オリジナル商品の売り上げも運営費に充てています。また、今年(2025年)の4月には「もりのこ基金」を創設し、賛同いただいた方々にご登録いただくなど、皆さまの温かいご支援で当館は成り立っています。
当館は1回90分の入れ替え制になっていて、各回の入れ替えの合間に30分の書架整理・清掃時間を設けています。2020年にオープンしたときはコロナの影響もあり、このような運営方法をとっていたのですが、コロナ収束後も、こどもたちが集中して本と向き合える時間を考慮して90分入れ替え制を継続しています」
-「こども本の森 中之島」のコンセプトについてお聞かせください。
「中之島は、100年以上前に開館した重要文化財の中央公会堂や、東洋陶磁の宝庫である東洋陶磁美術館などが立ち並ぶ、大阪の歴史・文化の中心として生き続けてきた場所です。そのすぐれた場所の個性を十二分に活かし、絵本や物語の文化が代々引き継がれていく「物語の聖地」として「こども本の森 中之島」は誕生しました。
いまはインターネットを使えば手軽で瞬時に情報が手に入りますし、ゲームやソーシャルメディアなどの影響でこどもたちの読書離れが進んでいます。ここには思わず本に触れたくなる工夫がたくさん施されていて、本を楽しみ、本に学ぶことで、無限の創造力が養われることを期待しています」
■本に囲まれわくわくしながら、お気に入りの一冊を自由に読める空間
-こどもたちに本を読んでほしいという安藤先生の強い想いがあったのですね。
「そうですね。だからこそ館全体が閲覧室という感覚を大切にしています。こどもたちって、気に入ったら床の上でも本を広げるので、床に座って声に出して本を読んでも全然OK!入り口から入ってすぐの大きな木の根っこのような大階段も、大階段裏の少し奥まった秘密基地みたいな穴蔵のようなスペースもみんな閲覧室。穴蔵のようなスペースはこどもたちに大好評で、時にはたくさんのこどもたちが集まって、団子状態になっていますね(笑)」

大きな木の根っこのような大階段もこどもたちの閲覧室。★

さながら秘密基地のような、大階段裏のスペース。★
「もちろん、普通に座って本を読むスペースも設けています。そこにも、安藤先生のこだわりがあり、読書に集中できるように座り心地を重視するとともに、こどもたちに上質な家具に触れてほしいという想いから、Artek社のN65や、オリジナルスツールなどを選んでいます」
こどもたちの読書の時間に寄り添う上質で座り心地の良い家具。
-どこでも、声を出して本が読めるなんてすてきな図書館ですね
「この施設、実は図書館ではないんですよ。こどもたちが好きな場所で、自由に本が読めるように、この施設は図書館ではなく文化施設として運営しています。図書館だとちゃんと座って静かに本を読まないといけないじゃないですか。でも、文化施設なら、声に出して本を読んだり、親御さんが読み聞かせもできます。だから土・日は小さなお子さん連れのご家族が多いですね」
-ほかにこどもたちの読書心をくすぐる工夫は?
「こどもたちが館内に足を踏み入れた瞬間、いかにわくわくするかにこだわっています。3フロア分の壁をすべて本棚とすることで「本の森」に見立て、360度ずらりと並ぶ本の表紙が出迎えてくれるようなディスプレイとしています。こどもたちは本を選ぶとき、背表紙ではなく表紙の絵柄を見て選ぶことが多いので、このような見せ方をしています。もちろん、気になった本は手に取れるように、手が届く低い本棚に閲覧用の同じ本を配架しています。本棚の上の方で表紙を見せている本は固定するなど地震対策もしっかり行っています。そして、館内は階段やブリッジ通路が立体的に交差し、まるで立体迷路のようになっているのも、こどもたちに施設を楽しんでもらうための工夫の一つですね。
また、本の中の一文を立体化した「言葉の彫刻」を本棚のあちこちに掲出し、気に入った一文の本を手に取ってもらえるようにしています」
「こども本の森 中之島」を象徴する3フロア分の壁がすべて本棚は圧巻。★
こどもたちの視界に言葉を滑り込ませ、手に取るきっかけを与える「言葉の彫刻」★
「1Fにある、ぼんやりと薄暗い、静寂に包まれた円筒状のスペースも読書心をくすぐります。ここではプロジェクションマッピングを使って、いろんな物語の断片的な場面を紙芝居のように上映しています。映像や音、空間を使って、紙の本になじみのないこどもたちを本の世界にいざない、物語に入り込んでいく楽しさを伝えられたらいいなと思っています。また、映像内でその本がどこのテーマのエリアにあるかを示し、興味があればすぐに探しにいけるような案内もしています。
このように、館内は自分の感性で、気に入った本を選べるような工夫をいっぱい施しているので、検索機や本を紹介するポスター類は一切設置していません」
外から入ってくる光が幻想的な空間。ここで、こどもたちは想像をふくらませる。★
■さまざまなジャンルの本を独自に考えた12のテーマに分けて配架
-選書におけるポイントを教えてください。
「選書を手掛けるブックディレクターの幅允孝(はば よしたか)氏は、「こどもをこども扱いしない」を裏テーマとし、本の裏に書いてある対象年齢にとらわれず、絵本を中心としつつも、幼年童話、児童文学、小説、各分野の図鑑、 自然科学書、芸術書などさまざまなジャンルの本を選んでいます。固定観念にとらわれないこどもたちの感性や直感で、年齢やジャンルにとらわれることなく自分が気になる本を手に取れるようにしています」
-ところどころに書かれているテーマは何ですか?
「幅氏が選んだ本に対して、こどもたちが興味や関心を持つように独自に考えた12のテーマです。本館ではこの12のテーマにそれぞれの本を分類し、配架しています。例えば、入ってすぐに「自然と遊ぼう」というテーマから始まりますが、これは、内と外の境界線をあいまいにすることでこどもたちの緊張をやわらげる意図があります。続いて、「体を動かす」「動物が好きな人へ」など身近なテーマでどんどん中へ入ってもらえるようテーマの流れにも気を配っていますね。他にも「食べる」「大阪→日本→世界」「生きること/死ぬこと」などがあり、「大阪→日本→世界」のところには洋書も入っていて面白いですよ。安藤先生のクライアントが寄贈してくださった本とか、万博関係でコラボした海外の団体さまから寄贈いただいた本もあります。文字は読めなくても、それぞれの国ごとに配色や絵の感じが違うので見るだけでも楽しめます。
このように、日常生活や好奇心を刺激するテーマを通して本に触れ、興味や関心を広げていってくれたらいいなと思います」

テーマ7は「きれいなもの」。本棚の向かいの窓からは中之島のきれいな景観が見え、テーマと設計が連動している。

各国の絵本や洋書が並ぶテーマ6「大阪→日本→世界」のコーナー。こどもたちが世界に向けて視野を広げるきっかけを作る。
■芸術や文化に囲まれ、本と一緒に過ごす時間を楽しめる中之島へ
-こどもたちにとって、中之島がどのような場所であってほしいですか。
「こどもたちがたくさんの文化や芸術と出会える場であってほしいですね。「こども本の森 中之島」は本の貸し出しは行っていませんが、一人一冊まで持ち出しができるので、中之島公園でぜひ、ピクニック気分で本と一緒に過ごす時間を楽しんでいただきたいです。
また、中之島は美術、芸術に関する施設が豊富にあり、文化的な特色が強いエリアなので、当館もこどもたちに大阪の文化を継承できる場所でありたいと願っています。そのため、文楽、狂言、落語など大阪の伝統芸能をこどもたちに知ってもらうイベントや、中之島美術館をはじめ中之島にある色々な施設とのコラボレーションを引き続き積極的にやっていきたいですね」
-今後の展望や抱負についてお聞かせください。
「保護者の方から「家だとあまり本を読まないけど、こども本の森に来るとちゃんと読むのよね」とお声をいただいています。開館から5年が経ちましたが、これからも、こどもたちが安全に過ごせるよう、維持していくことが館長の務めだと考えています。また、当館のメインターゲットは乳幼児から中学生なのですが、中学生ぐらいになると本を読まなくなる子が増えるので、ぜひお気に入りの一冊を見つけられる場所になってくれたらと思います。
リピーターが多い施設なので、大階段でよちよち歩きをしていた子がどんどん大きく成長していく姿を見るのがとても楽しく、うれしいです。これからも、何年も愛される場所としてあり続けられるよう、安藤先生の想いを受け継ぎながら当館ならではの色を出していきたいですね」
こども本の森 中之島
| 住所 | 〒530-0005 大阪市北区中之島1-1-28 |
|---|---|
| 営業時間 | 9:30~17:00 |
| 休館日 | 毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌平日は休館) |
| アクセス | 京阪中之島線 なにわ橋駅より徒歩2分 |
