中之島界隈の職人・商人と天神祭の関わり

節電の影響からか、例年よりも一層暑く感じる2011年の夏。その熱気を吹き飛ばすべく、今年も各地で夏祭りが開催されます。
大阪でもっとも盛り上がるお祭りといえば、日本三大祭の1つにも数えられる「天神祭」ですが、今回はそのお祭を支える、中之島界隈の職人さんや、商人さんたちを訪ねてみました。
中之島界隈の職人・商人と天神祭の関わり
中之島界隈の職人・商人と天神祭の関わり

大阪・天満にある「提灯舗かわい」は、創業安政5年、現在の社長、河合清司さんで6代目という由緒ある提灯屋さんです。ちょうど天神祭の準備で忙しくされている最中に伺いました。 実は河合さん、若い頃は提灯屋さんの跡を継ぐという意識はそれほど強くなかったそうですが、学生時代にヨーロッパに旅行に行き、古いものや伝統を大事にするヨーロッパの人々の気質に感銘を受け、先祖代々続いてきた提灯屋さんを継ぐ決意をなさったとか。 昔は、提灯問屋には、文字や絵付けをする職人が雇われ、分業とするところが多かったのですが、  現在は製造から絵付けまですべての工程を自分達で行うため、後を継ぐことを決意した河合さんは、まず字を書く練習をすべく、小学生達とともに書道教室へ通われたそうです。 はじめは、自分の字にコンプレックスがあり、億劫だった文字書きも、いまでは すっかりプロフェッショナル。お祭りや、お店のオープン時などハレの日を飾る提灯に自分の文字を見つけると嬉しくなるそうです。とはいえ「初心忘れるべからず」を肝に銘じ、一文字一文字心を込めて文字を書き、紋入れを受け持つ弟さんと2人、もくもくと作業を行っていらっしゃいます。
大阪・中之島で、どんなことをされてみたいですか?との問いには、「最近イルミネーションやキャンドルを使った光のイベントが多く実施されているけれど、“提灯ナイト”とかできたら面白いかもね」と素敵な企画を語ってくださいました。

中之島界隈の職人・商人と天神祭の関わり

さて、「提灯舗かわい」を西へ。松屋町通りを挟んだ菅原町にある胡麻屋さん「和田萬商店」をたずねました。 菅原町といえば、かつて天満青物市場の並びに乾物屋さんが軒を連ね、全国各地から買い物客が訪れていたそうですが、1931年に大阪中央卸売市場ができてからというもの、その殆どが移転し、現在はポツリポツリと十軒ほどの乾物屋さんが残るのみとなってしまいました。

和田萬商店は明治16年創業の老舗の乾物屋さんで、胡麻専門店になったのは50年ほど前。伝統という名のブランドに甘んじることなく、早々にネットショップを立ち上げたり、新商品の開発を 行ったりと、経営者と従業員のみなさんが一丸となってアグレッシブに活動されています。 また、新しい取り組みだけでなく、古くからあるものも大事に残したい、と現在の店舗に隣接する古い蔵を新店舗に改造中です。オープンが楽しみですね。

この日お話しさせていただいた社長のご子息、和田専務は「何故大阪の町が栄えてきたのか、考えたい。“天下の台所”と呼ばれた時代の大阪の活気を取り戻せたらいいですよね」と、自分のお店だけでなく、地域全体の発展をも視野に入れておられるところがなんとも頼もしく感じられました。

中之島界隈の職人・商人と天神祭の関わり

「和田萬商店」のあとは徒歩30秒ほど歩いたところにある乾物屋の「後藤商店」へ。
昭和31年に創業されたという後藤商店は、和田萬商店の親戚筋にあたる現社長のお父様が創業なさったそう。「この界隈はみな何かしら繋がりのある人が多いんですよ」と社長の後藤さん。 後藤さんは、ご商売の傍ら、大阪天満宮の「御鳳輦講(ごほうれんこう)」の「講元(こうもと)」という役割を担当されています。「講(こう)」とは、祭事や神事をサポートする、氏子達の集まりのことで、天神祭を司る天満宮ですと、30以上の「講」があり、その1つ1つの講を束ねるのが「講元」のお仕事だそうです。

中之島界隈の職人・商人と天神祭の関わり

ちなみに、提灯屋の河合さんは、「御鳳輦講」の副講元を担当されており、和田萬商店の専務の和田さんは、「鳳講(おおとりこう)」に所属されています。天神祭の日は 渡御(とぎょ)に参列したり、神輿を担いだりと、それぞれ活躍されているのだとか。
「天神祭は静と動のお祭。例えば、御鳳輦講は粛々と厳かに神事を行う”静”の講ですが、
若い人から見たら、ちょっと年寄り臭いかも。若い人は”動”の講である鳳講で御神輿を担いだり、天神講獅子で踊ったりしていますよ。私も20年ほど前までは鳳講におりましたし・・・」と後藤さん。

このほか酒造メーカーやお酒の販売店から結成される御神酒講(おみきこう)や、堂島の米商人達が作ったとされる米穀商御錦蓋講(べいこくしょうおんきがいこう)、出版業者による大阪書林御文庫講(おおさかしょりんごぶんここう)などがあります。 日頃は人々が神社を参拝しますが、天神祭の日は神様(菅原道真公)が街におりてこられるので、お酒を振舞ったり本を出したりしてお世話をするのが講の役割なのだとか。なるほど~。

お盆・お正月と並んで特別な日、天神祭。河合さん、和田さん、後藤さんが、それぞれ口を揃えておっしゃったのは「お祭に来られる皆さんに楽しんでもらいたい」ということ。商人さん・職人さんが、受け継いでいるのは、商売や技、歴史的行事だけではなく、氏神様や、お祭に訪れる人たちへのホスピタリティ精神なのだということがわかり感激しました。今年の天神祭はいままで以上に楽しめそうです。

(※2011年7月に取材・掲載した記事です。)