2019年10月10日

ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道

「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」展とは
国立国際美術館で現在開催中の日本・オーストリア外交樹立150周年記念”ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道”について国立国際美術館の主任研究員の方に解説いただきました。

”ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道”展とは
世紀末ウィーン、伝統と革新とが交差する時代の、東西ヨーロッパを中継する地域。不安と葛藤、軋轢うずまくその都市では、特異な文化が花開きました。その道行きを、ウィーン・ミュージアムの所蔵品を中心とする約300点の作品で振り返ります。

圧倒的な物量で振り返るウィーンの世紀末
ウィーン世紀末という言葉には、どこか特別な響きが伴います。東西ヨーロッパを中継する地域の、終わりと始まりとが同居する時代。さまざまな価値観が混在し、不安と葛藤、軋轢うずまくその都市では、一風変わった「近代」が花開きました。ウィーン・モダン展を構成するおよそ300点の作品群は、そんなウィーン世紀末芸術の具体的なありようを照らし出してくれるでしょう。しかも副題にあるとおり、「世紀末への道」ごと、まとめて。つまりこの展覧会は、ウィーン世紀末を「点」ではなく、その前史にまで立ち返って「線」で捉えなおすことを主たる狙いとしています。
グスタフ・クリムト《パラス・アテナ》1898年グスタフ・クリムト
《パラス・アテナ》
1898年
ダゴベルト・ペッヒェ《ティーセット》製作:ウィーン工房 1922-23年ダゴベルト・ペッヒェ
《ティーセット》
製作:ウィーン工房 1922-23年
コロマン・モーザー《第13回ウィーン分離派展ポスター》1902年コロマン・モーザー
《第13回ウィーン分離派展ポスター》
1902年
ウィーンの近代へといたる道程
本展覧会がまず注目するのは、ウィーンの近代化をうながした3つの条件、「自立」と「生活」と「革新」です。たとえば国母マリア・テレジア(1717-80)による啓蒙主義的な文化政策や、あるいは、19世紀前半に花開いた温かく家庭的なビーダーマイヤー様式。理性の信頼にもとづく前者により、運命は「与えられるもの」から「切り開かれるもの」へと捉えなおされ、いっぽうの後者は、芸術と生との接点をさぐる後の若き前衛たちに、少なからぬヒントを与えてくれました。
 また何より、19世紀の後半よりはじまる都市改造、とりわけ街の中心に建設された環状のリンク通りは、ウィーンの近代が出現する直接のきっかけを用意します。街全体をおおう歴史主義的な懐古趣味、新しくも古いその街並みは、革新を夢見る芸術家たちにとって反発の温床となりえるでしょう。後ろ向きで、かつ前向き。そんな緊張状態のなか、ウィーンは近代への一歩を踏み出します。
マルティン・ファン・メイテンス《マリア・テレジア(額の装飾画:幼いヨーゼフ2世)》1744年マルティン・ファン・メイテンス
《マリア・テレジア(額の装飾画:幼いヨーゼフ2世)》1744年
フリードリヒ・フォン・アメリング《3つの最も嬉しいもの》1838年フリードリヒ・フォン・アメリング
《3つの最も嬉しいもの》
1838年
ハンス・マカルト《1879年の祝賀パレードのためのデザイン画――菓子製造組合》1879年ハンス・マカルト
《1879年の祝賀パレードのためのデザイン画――菓子製造組合》1879年
妖しく煌めくウィーン・モダン
見た目と中身、大切なのはどちらでしょうか?——しばしば目にする二者択一ですが、ことウィーンにおいてこの問いは、一筋縄ではいきません。美しくも空疎なその街がもたらす、目に見えるものへの不信感。ウィーンの近代を生きる芸術家たちは、表層の向こう側、深層へと潜り込むことをめざします。目に見えるものを、目に見えるまま再現するのではなく、目に見えないものを、どうにかして目に見えるよう表現してやることこそが、彼らの課題だったといえるでしょう。
 たとえば、愛する女性の身体を装飾で覆いつくすクリムト。あるいは何度もくりかえし、多様な自画像を描いてみせるシーレ。さらには皮膚ないし触覚への偏執的なこだわりを絵画に昇華させるオスカー・ココシュカも。表層と深層とをつなぐ迂回路のありかたは、芸術家の数だけ存在します。何が描かれているかは分かるのに、何を言わんとしているのかが分かりにくい。そんな「表現」という行為そのものの逆説こそ、彼らの実践から浮かび上がってくるのではないでしょうか。本展覧会では、そんな特異なウィーンの近代を楽しむ、またとない機会となっています。
グスタフ・クリムト《エミーリエ・フレーゲの肖像》1902年グスタフ・クリムト
《エミーリエ・フレーゲの肖像》
1902年
エゴン・シーレ《自画像》1911年エゴン・シーレ
《自画像》
1911年
作品はすべてウィーン・ミュージアム蔵  ©Wien Museum / Foto Peter Kainz

福元崇志(国立国際美術館 主任研究員)

ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道

★開催期間:2019年12月8日(日)まで
★開館時間:10時00分~17時00分 金曜・土曜は20:00まで開館。(入場は閉館の30分前まで)

※休館日:毎週月曜日(ただし、祝休日は開館し、翌日休館。)

※都合により変更になる場合があります

(2019年10月/※画像はイメージです)
国立国際美術館
住所
大阪府大阪市北区中之島4-2-55
TEL
06-6447-4680(代)